子育て/療育情報 | 2015年04月22日 | 25,874 views | Posted by vochkun
特別支援学校に就学する際の経費の一部を助成する制度として就学奨励費があります。これまでは通学費や学用品などが支給対象でしたが(支給要件や支給上限は自治体や世帯収入によって異なる)、平成26年度からは新たにICT機器もその対象となりました。
つまり、iPadなどのタブレット端末を購入する際にも就学奨励費を活用できるようになったということです。うーん、素晴らしい!
ただし、昨年度(平成26年度)では、支給対象となる生徒は「高等部の1年生のみ」で、本年度(平成27年度)からは高等部の2年生も対象に加わりました。おそらく来年度は高等部の3年生も、、、というように年次進行で順次拡大されてゆくのだと思われますが、対象学年以外のお子さんは残念ながら支給対象外となります。
就学奨励費の存在は知っていても、ICT機器が支給対象になるということを知らない保護者の方も多いのではないでしょうか? それもそのはず、文科省のホームページなどを見ても、どこにも公表されていません(2015年4月現在)。ただ、各自治体の教育委員会等を通じて学校側には正式に通達が行っているはずなので、学校の事務に問い合わせると詳しく教えてくれるはずです。一部の学校ではPTA向けに説明会を開催しているところもあるようですが、うちの長男が通う学校では特に説明会等はありませんでした。
また、誤解されやすい注意点として、(学用品等とは異なり)勝手にiPadを買ってきて、後から「支給してください」と申請しても認められない可能性が高いということです。
せっかく新しくできた素晴らしい制度なのに、活用しないのはもったいない!ということで、わが家でこの制度を利用してiPadを実際に購入した経緯を詳しくご紹介しようと思います。今後この制度を利用される方の参考になりましたら幸いです。
就学奨励費によるICT機器購入について
前提として、うちの長男は東京都立の特別支援学校に通っています。東京都に限定された制度ではありませんが、他の自治体では取り組みが若干異なる場合がありますので、その点は予めご注意ください。
- 対象となる生徒は、特別支援学校の高等部(本科)の1・2年生のみ(平成27年度の場合)
- ICT機器は学校の授業における「教材」としての利用が前提となる
- ICT機器の購入における就学奨励費は、世帯収入による段階(支弁区分)に関係なく一律5万円
- この5万円は、学用品や通学費など従来までの就学奨励費に加算される。つまり従来3万円の支給を受けていた家庭の場合は、3+5=8万円が上限となる。
- この上限を超える場合は保護者の実費負担
- 支給対象となるものは、ICT機器本体(タブレット端末等)、周辺機器(電源ケーブル、イヤホン、保護カバー等)、アプリの購入費(ただし授業での利用を前提としたもの)、故障の際の修理費等
- 通信費は支給対象とならない
- 申請の際は領収書等の証明書が必要となる(学用品と同様)
この中で一番注意しないといけない点は、2番の「授業での利用が前提となる」の部分ですね。「自宅学習の為にiPadを購入したい!」とか「タダで買えるなら、試しに使ってみたい!」と言っても「それは支給対象とは認められません」となるわけです。もっと言うと、予め担任の先生と相談して「個別支援計画」の中にICT機器の利用を明記してもらう必要がある、ということです。
わが家の事例紹介
現在うちの長男は東京都立の特別支援学校の高等部に通っています。ラッキーなことに昨年は対象学年となる高等部1年生だったので、就学奨励費を活用してiPad miniを購入できたのですが、実際に支給を受けるまでは色々と紆余曲折ありました。
【中学時代について】
中等部のときから学校にタブレット端末(Androidタブレット)を持ち込んで校内活動でいろいろと活用してもらっていました。主な用途はコミュニケーションやスケジュールの視覚化等です。このときは、特に苦労もなく、すんなりと持ち込みを認められていました。
【高等部になって】
高等部に進学して、学校環境ががらりと変わり、当初はタブレットの持ち込みが認められませんでした。校則に「学校では携帯の電源を切ること」と書かれていた為です。これには大いに困惑しましたが、その後、担任の先生と度重なる話し合いをおこない、入学から3ヶ月経ってようやく特例として持ち込みが認められました。
その際、中学時代や家庭での活用方法を紹介しつつ、本人にとってタブレット端末がいかに必要不可欠なものであるかを説明しました。また、文科省のサイトに掲載されている「特別支援教育における教育の情報化」のページを印刷して先生に渡したりしました。
コンピュータ等の情報機器は,特別な支援を必要とする幼児児童生徒等(以下児童生徒という)に対してその障害の状態や発達の段階等,児童生徒の実態に応じて活用することにより,学習上の困難を克服させ,指導の効果を高めることができる有用な機器である。
最近では、このような情報が学校にも徐々に浸透してきているので、以前のように頭ごなしに「電子機器は絶対ダメ!」と言われることは減ってきているように感じています。なので、当初は認められなくても、冷静かつ理論的に粘り強く話し合いを進めていけば、合理的配慮の観点から、タブレット端末の持ち込みについて理解をしてくれる可能性も十分あるのではないかと思っています。
【個別支援計画への記載】
担任の先生と面談する際に、家庭でのタブレット活用事例を紹介しつつ、個別支援計画の中にタブレットの活用を盛り込んでもらうようお願いしました。具体的な記載事項としては「タブレットを使って気持ちを表現できるようにする」「タブレットを使った文字入力を習得する」等です。この時点では就学奨励費のことは、まったく頭になかったのですが(そもそも当時は制度自体知らなかった)、これが後になって、支給決定の大きな決め手となりました。
最近はどの学校でも個別支援計画・指導計画・年間指導計画などを作ると思いますが、その際には本人の希望を踏まえて、家庭からもどんどん要望を言った方が良いと思います。先生としても、その方が支援が進めやすくなるので、お互いにとって良い方向に進むはずです。
【タブレットの買い替えを決定】
夏休みのある日、それまで使っていたAndroidタブレットを落としてしまい、画面に大きなヒビが入ってしまいました。また、もともと古い端末で動作もかなり重くなっていたので、買い換えることを決意しました。ちょうどそのころ、Facebookの知り合いを通じて「就学奨励費によるICT機器の補助制度」の存在を知りました。
【就学奨励費の利用について相談】
9月になり、まず妻が学校の経営企画室の担当者に相談したところ「確かにそういう制度が始まったことは事実だが、学校主導でICT機器を一斉購入する際に利用する制度なので、個別に購入する際は対象外」と言われ、あっさり断られてしまいました。
その後、何度か問い合わせるも、なかなか埒が明かない状態だったので、父親の私が出向き「個別支援計画にはタブレット端末の活用が明記されているのだから、要件は満たしているはず」と伝えたところ「東京都の特別支援教育課に確認して返答する」との返事をもらいました。
その後、延々と待たされたのですが、ようやく11月末になって学校から「東京都から認可がおりました」との回答を貰うことができました!
【iPad miniの購入】
それまで息子が使っていたのは7インチサイズのAndroidタブレットでしたが、以下のような点を考慮し、今回はiPad miniに買い換えることにしました。
- iPad miniならサイズ的にも持ち運びが苦にならない
- Apple StoreでSIMフリー版のiPadが購入できるようになった(MVNO利用で通信費の節約)
- iOS 8で日本語かなキーボードが使い易くなった(→詳細)
- iPad版のLINEが登場した(実はこれが一番の決め手→詳細)
- 支援アプリはAndroidよりiPadの方が豊富にありそうだった
- AndroidよりiOSの方がセキュリティ的に安心感があった
ということで、わが家で実際に購入したのは、「iPad mini 2 Wi-Fi + Cellular 32GB(SIMフリー)」で、税込で約54,000円ほど。5万円を若干オーバーしてしまいますが、ほとんど就学奨励費で賄うことができました。
就学奨励費を使うとは言え、できるだけ費用を安く抑えたかったので、Apple Online Storeでひっそりとおこなわれている障害者割り引き制度を使いました。数年前に問い合わせたときは「iPadは割引対象外」と言われたのですが、久々に問い合わせたらiPadも割引対象になっていました。障害手帳・療育手帳をFAX等で送る必要がありますが、そうすることでiPad本体や周辺機器も含めて約2%ほどの割引が受けられます。
- 障がい者向けApple Online Store特別販売プログラム – Apple Online Store
もしSIMフリー版に拘らないのであれば、家電量販店の方が若干安く購入できるかもしれません。Wi-Fiモデルならさらにお安くなりますが、GPS搭載でいざというときに子どもの居場所を確認できるWi-Fi + Cellularモデルが個人的にオススメです。
さいごに
以上のように就学奨励費を使ってiPadを購入するのは、なかなか一筋縄ではいかず、特に学校との話し合いには苦労しましたが、おかげさまで無事に買い換えることができました。今ではiPad miniは息子にとって無くてはならない支援機器となっています。
昨年のATACでお話を聞いた愛知県立みあい特別支援学校のように、学校主導で生徒全員にiPadを購入し、授業で活用している学校もあります(詳細→PP団のFacebookページ)。その場合も就学奨励費を活用できますので、これまでネックだった経費の問題もクリアできます(学校にも保護者にも経済的負担がかからない)。なんとも羨ましい話ですが、そういった学校はまだまだ極一部で、ほとんどの場合は保護者主導でやるしかないのが現状のようです。
また、現在のところ対象となる生徒は高等部の1・2年生に限定されているため、極一部の生徒しか恩恵を受けることができません。今後は小学部や中等部にも広がっていくこと強く望みます。