活動レポート | 2011年12月21日 | 23,299 views | Posted by vochkun
12月16日に練馬区光が丘区民センターにて「第2回 情報端末と療育に関する勉強会 〜 発達が気になる子どものiPhone/iPad活用 〜」を開催しました。
年末の忙しい時期にも関わらず多数の保護者、支援者、専門家の皆さまにお集まりいただき、ありがとうございました。おかげさまで私自身も大変充実した時間を過ごすことができました。
今回の勉強会では、私の方から「IT支援の基礎知識」をテーマにお話をさせていただきました。その内容を踏まえて、知的障害・発達障害とIT支援について私なりの考えを述べてみたいと思います。
支援技術とは何か
「支援技術(Assistive Technology;AT)」を一言でいうと「障害がある人の社会生活を支援するためのテクノロジー」ということになります。概念図で示すと下記のとおりになります。
社会生活の中に何らかの「障害」があり(社会モデル的障害観では、その人自身ではなく、社会の中に障害があると捉える)、それを乗り越える手助けとなる「踏み台」みたいなもの、と私は考えています。
学習におけるIT支援とは
LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症・アスペルガー症候群などの発達障害がある子どもたちは、普段の生活の中や学習をする上で、様々な「困り感」を抱えています。
学習におけるIT支援の基本的な考え方を示したのが下図です。支援技術を活用することで「学習に対するアクセスのしやすさ」=「学習へのアクセシビリティ」を担保するという考え方です。
この辺の話については、これまでに私がセミナー等でお話を聞かせてもらった東大先端研の近藤武夫さんや滋慶医療科学大学院大学の岡耕平さん、そして早稲田大学の畠山卓朗さんらの影響を強く受けています。
さらに詳しく知りたい方は、これらの先生方の講演会等に参加されることをおすすめします。
支援機器としてのiPhone/iPadのメリットと課題
iPhone/iPad/Androidなどの携帯情報端末を支援機器として活用しようとする動きが日本でも活発になりつつあり、その可能性が大きな注目を集めています。学習に困難がある子どもたちの支援にiPhone/iPadを活用する場合、次のようなメリットがあると私は考えています。
(1) コンパクトであること
どこへでも持ち運び可能で保管場所にも困らない
(2) 利用地域が限定されないこと
ネットを通じて日本中・世界中から利用することが可能
(3) 直感的な操作性
タッチパネルで小さな子どもでも簡単に操作できる
(4) 経済的メリット
療育の一部をIT化することで経済的負担を軽減できる
(5) カスタマイズ性
本人の能力や学習の進捗具合に合わせてカスタマイズできる
(6) デバイスに対する子どもの感心が高いこと
学習に対するモチベーションを維持しやすい
逆に今後の課題点としては、1)療育に使えるアプリがまだ少ない、2)のめり込み・ハマりすぎ問題、3)セキュリティやリテラシーなどの課題があるため、支援者や保護者が十分にケアしてあげる必要があります。
なお、先週末に京都でおこなわれたATAC2011(電子情報支援技術とコミュニケーション支援に関するカンファレンス)でもiPadを活用した特別支援教育に関する発表が大きなを集めていたとのことです。
特別支援教育のIT化の今後について
文科省や総務省のビジョンによると、2015〜2020年にかけて、全国の小中学校の教科書がデジタル化される見通しですが、一部の教育関係者からはそれに反対する意見も出ているようです。
私はデジタル教科書の導入には基本的に賛成しています。もともと勉強が出来る子にとっては紙だろうがデジタルだろうが、ほっといても出来るので、正直どっちでも良いと思いますが、障害がある子どもたちにとっては、上述のとおり、より多くの恩恵を受けれる可能性があるからです。
ただ、その為にはハード面、ソフト面で大きな課題があるのも事実です。私たち自身も様々な活動を通じて特別支援教育のIT化に貢献していきたいと考えています。
ゲームと学習の融合について
ところで、上記で上げた6つのメリットのうち、私が特に注目しているのは6番の「デバイスに対する子どもの感心が高いこと」です。それは学習において一番重要なことは「自ら興味をもって楽しみながら学ぶこと」だと信じているからです。
日本だと「ゲーム」という言葉は、とかくマイナスなイメージで受け止められがちですが、ゲームと学習の融合が今後の特別支援教育の鍵になっていくのではないかと思っています。
「つめこみ教育」ではなく、どうやったら興味を持って学んでくれるか。これは特別支援教育だけではなく、一般にも言える大きなテーマだと思います。
日本ではまだあまり一般的ではないですが「シリアスゲーム」や「ゲームニクス」といったキーワードが海外で注目を集めています。私たちKeaton.comでも今後開発する学習支援アプリや知育アプリを通じて、これらの要素を追求していきたいと思っています。
この記事を書いた人:
Naoya Sangu @vochkun