なぜテクノロジーを使った学習支援が必要なの? ― 『魔法のランププロジェクト成果報告会』参加レポート

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活動レポート | 2014年01月30日 | 9,109 views | Posted by vochkun

 1月25日に東京大学先端科学技術研究センターで開催された「魔法のランププロジェクト成果報告会」に参加してきました。

 「魔法のランププロジェクト」は、全国の学校にiPadやWindowsタブレットを1年間無償で貸し出し、子どもたちの学習支援・生活支援についての実証研究をおこなうというプロジェクトです。

タブレット端末を使った学習支援事例

 参加校による実践報告はどれも興味深かったのですが、特に印象的だったのが安来市立赤江小学校の井上賞子先生による「ディスレクシアのある子どもの支援事例」でした。

 発達障害の1つである「ディスレクシア」は、読み書き等に著しい困難をともなうという障害です。思考能力など知的な部分は他の子どもとまったく変わらないのに、文字を読んだり書いたりする事が困難なため、学習面で大きなハンディキャップを背負うことになります。

 井上先生の報告では、授業やテストで使うプリントをスキャンしてタブレット端末に取り込み、さらにプリントに書かれた文章を音声で録音し、それを再生するためのボタンを画面上に設置することで、文章の理解力が大きく改善したという事例が報告されていました。紙に書かれた文字を読むことが苦手な子どもでも、音声によって内容を理解することができた、ということですね。

 また、書字障害があり、鉛筆を使って文字を書くことが苦手な子どもでも、タブレット端末のワープロアプリや音声認識アプリ等を使うことで、人に頼らず自分の力で文章を入力することができたというケースも報告されていました。

ツールを使った支援と人を介した支援の違いは?

 何らかの障害によって文字の読み書きが困難な子どもが、学校の試験を受ける場合、従来までは先生や支援者が代読・代筆をするという支援がおこなわれてきました。

 「だったら今さらタブレット端末などのツールは必要ないんじゃ?」と思われるかもしれませんが、この2つにはいくつかの大きな違いがあります。

1) 自分のペースでできる

 文字を読んで理解するときは、人それぞれのペースがあります。ツールを使えば、再生スピードを調整したり、何度も繰り返し再生することが簡単にできます。「人に何度も代読を頼むのは気引ける…」と遠慮する必要もありません。

2) いつも支援者がいるとは限らない

 先生や親など支援してくれる人がいつも側にいてくれれば良いのですが、いつもそうとは限りません。その子が学校を卒業してからはどうでしょうか? タブレット端末などのツールであれば、いつも携帯し、将来に渡って継続して使うことができます。

3) 自分でできたという満足感

 人に手伝ってもらったときと、誰の手も借りずに自分の力だけでできたときでは、やはり満足感が違うのではないでしょうか。

 確かに機械より人が支援してくれた方が温か味がありますし、その方が安心という人もいるでしょう。ですが、テクノロジーを使った支援も無視できない大きなメリットがあると考えます。

生活にどう活かすかが重要

 最後に東大先端研の中邑賢龍教授がお話をされていた言葉が印象的でした。

 タブレット端末を活用することで、障害がある子どもたちの困難を軽減し、「できる事」を増やすことは確かに可能。ただ、それが目的ではなく、どう生活に繋げていくのかが重要。

 「ツールありき」ではなく、その子が何に困っていて、何を望んでいるのかについて十分理解した上で、将来どうしたら幸せな生活を送ることができるのか、そういった視点で考えることが大切なのだと改めて感じました。

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